香川歴史的建造物保存活用会議
Kagawa Historical Architecture Committee

Report

 
2018.06.28
香川歴史的建造物保存活用会議
設立にあたり(設立総会の報告)

(報告者:大西泰弘)

設立総会後の集合写真

 2018年6月28日、香川歴史的建造物保存活用会議が設立した。設立にあたり、私たちがどのような団体なのか、設立までの経緯と設立総会の次第について報告する。

はじめに

 文化財や歴史的建造物というと、国や自治体が指定する特別なものと考えられがちだが、指定されていなくても歴史や芸術上の評価があるか、人々の生活の理解に必要なすべての文化的所産は文化財である。そして将来その価値が認められて指定される可能性もある。そう考えると私たちの周りにはたくさんの文化財が存在している。
 しかし、指定されていない歴史的建造物はただ古いものとして解体されていくという状況を多く見る。指定されていなくても文化財としての評価を得て改修し使われるものもある一方で、文化財的価値の再生が困難な改修例を見ることもある。保存には活用が欠かせないものなので、まずは解体されないことが重要なのだが、将来は文化財として再生できる可能性も残しておきたいものである。そのためには、所有者やこれらに関わる専門家が文化財についての知識を持っておくことが必要なのだ。
 
 阪神淡路大震災により兵庫県では多くの歴史的建造物が被害を受けた。これを機に兵庫県建築士会では、文化財分野の技術者養成講座を開催し、歴史的建造物の再建や保存修理などに関わる専門家を育て、その講座修了者が関わることで多くの保存修理の実績を残してきた。兵庫県から始まったこのような動きは全国に広がり、多くの県でも同様の技術者養成講座を行い、講座修了者からなる団体が設立され、現在はその全国ネットワークが組織されている。

登録有形文化財「寳月堂南館」(講座で調査実施)

養成講座の開催

 香川県でも、自治体が指定する歴史的建造物、国指定の登録有形文化財、文化財の指定が期待される建物のほか、指定はされないが保存活用により新たな価値を生む可能性を持った建物も多くあり、歴史的建造物に関わる技術者が必要であることは他県と同様の状況にある。
 
 2015年12月、歴史的建造物に関わるNPO、行政の専門家、香川大学工学部(現在の創造工学部)の有志が発起人となり、歴史的建造物の保存活用に関わる技術者養成講座を開催するために「香川文化遺産保全技術者養成講座 実行委員会」を立ち上げた。
 香川県での講座は、すでに全国で開催されているヘリテージマネージャーと呼ばれる技術者向け養成講座に倣い、次のようなものとした。ただし講座受講対象者は他の団体と異なり、資格を持つ建築技術者に限定しないことにした。(講座プログラムは別紙参照)
 
・講座の目的:歴史的建造物の保存活用に関わる人材の育成であるが、この講座はその始まりでしかない。講座修了後には新たなて団体立ち上げ実務経験の機会づくりなど、技術力を向上させる仕組みが不可欠であることを前提として考えておく。
・講座の内容:全国で行っている講座課目を概ね網羅し、講座時間は全国の講座と同じ60時間とする。
・受講対象者:歴史的建造物に関わる人は多様であり、実務では建築技術者ではない人たちのかかわりも重要であると考え、所有者や建築技術者など歴史的建造物の保存活用に関わる人、興味がある人とし、職種や資格の有無は限定しないものとした。
・予算:受講者の参加費のみで賄うものとする。補助金を用いる場合、予算執行条件から半年間で完了する講座となり受講者の時間的負担が大きくなり、講師依頼など事務手間をもかかることとなるため。
 
 講座は、第1期は2016年4月~2017年3月(全12回)、第2期は2017年4月~2018年3月(全12回)の2期開催した。受講者は、チラシ、ホームページ、香川県建築士会の会報などを通じて募集し、第1期が30名、第2期が21名でした。受講修了者は、現時点で第1期が27名、第2期が16名、合計43名です。なお、未終了者については未受講講座のフォローを行い、希望者の全員が受講終了できるようにしている。
 今後の養成講座については、当面の開催は予定していない。第1期募集では定員20名に対して30名を超える応募があったが、第2期では定員に達したものの問い合わせが少なく応募状況が芳しくなかったことから、今後の開催を呼びかけても必要な人数確保が困難と予測されたためである。

講座開催に関わった団体

<主催>
・香川文化遺産保全技術者養成講座 実行委員会
<共催>
・国立大学法人香川大学工学部
・特定非営利活動法人土壁ネットワーク
・一般社団法人香川県建築士会
<後援>
・香川県教育委員会
・一般社団法人日本建築学会四国支部
・香川県建設労働組合

2016年度・第一期/現地研修・本山寺

 

2016年度・第一期/座学・香川大学創造工学部

 

2017年度・第二期/実測調査・多度津藩武家屋敷

設立準備会

 養成講座の準備当初より、複数回の講座終了から時間を空けずに新たな団体を立ち上げたいと考えていた。そこで、最終講座で行ったアンケート調査で活動への参加表明をいただいた人たちに呼びかけ、設立準備会を設置し、2017年11月から設立総会の2018年6月まで9回の検討会を開き協議を重ねた。
 
 新たな団体の名称は「香川歴史的建造物保存活用会議」を案として設立総会で示すことになった。複数の案の提案があったが、活動の内容が誰にも分かりやすく正確に伝わることを基本にと考えた。また、構えすぎない組織にしたいということで末尾は「会議」とした。頭の「香川」はひらがな標記の案もあったが県内他団体との混同がないよう敢えて漢字とした。広報活動などで使用する英語表記は、他県での使用例が多い Heritage は使わず、対象が歴史的建造物であることが分かるよう Historical Architecture とし「Kagawa Historical Architecture Committee」を案として諮ることになった。
 
 設立準備会には、規約、設立趣旨書、事業計画、収支予算、会費規定の草案も準備し、6月28日の設立総会に起案するに至る。

設立総会

 養成講座を修了した43名に香川歴史的建造物保存活用会議への参加を呼びかけ、35名の参加表明をいただいた。6月28日開催の設立総会への参加者は、会員26名、養成講座にご協力いただいた来賓5名を加えた31名の参加をいただいた。
 
 活動の目的は、設立趣旨書に記載の通り「歴史的建造物の調査や研究、保存活用に関する助言、支援、普及啓発、技術者の育成のほか、所有者や地域が抱える様々な課題への対応など、私たちの暮らしの中にある歴史的建造物の保存と活用に関わる活動」である。(以下、設立趣旨書参照)この目標に向け初年度となる今期は、まずは次の二つの事業に力を注ぎたいと考えている。
 
① この会のことを知ってもらうこと
・何をしている団体か、何ができるのかを広く知っていただくよう、広報活動を進めるほか、これまでの活動の報告会などを開催する予定。その際、信頼できる団体であることを伝えるものになるよう留意する。
 
② 会員の学習機会をつくること
・養成講座はこれから始まる活動のスタートラインであった。これから学ぶことが会員個人の技術力を向上させるものとなり、会員の技術力が会の信頼性を得ることにつながるものとなる。実習、講習、関係団体との交流など、この会を通して新たな学習機会をつくる。
 
 総会は18時30分にはじまり滞りなく進行し、組織名、設立趣旨書、規約の承認後、理事に池田裕美、大西泰弘、久保勇人、土居良助、森本英樹の5名を、監事に馬場正文、川口洋子の2名が承認され、代表に大西泰弘、副代表に池田裕美と久保勇人の2名が選任された。その後、設立当初の会費、事業計画、収支予算を承認、19時30分に閉会、来賓からお言葉をいただき全ての予定は終了。総会後に開催した懇親会の参加者は26名であった。

設立総会

来賓/徳島文理大学文学部 文化財学科 清水真一先生

来賓/香川大学創造工学部 建築・都市環境コース 宮本慎宏先生

来賓/香川大学創造工学部 建築・都市環境コース 釜床美也子先生

来賓/香川県建築士会 会長 遠藤孝司氏

<参考資料>

香川歴史的建造物保存活用会議
設立趣旨書

 

1 趣旨

 私たちの日常の暮らしの中にある歴史的建造物は、地域らしさを特徴づける景観や歴史文化を守り育てるために欠かせない大切な資産です。また、これら建造物の魅力を生かした新しい仕事や暮らし方などへの活用は、これからの地域の活力向上に役立つものと期待されています。そのためには、歴史的建造物の価値を発見、再評価し、適切な修理や維持管理を行いながら、地域づくりに生かしていくことができる人材と活動を推し進めていくための環境づくりが必要となっています。
 このような中で、地域の歴史的建造物の保存活用に関わる人材の育成を目的として、平成28年及び平成29年の二年度に渡り、建築技術者(建築士、大工や左官など職人技術者等)や建造物の所有者、歴史的建造物の保存や活用とこれらを通じたまちづくりに積極的に関わりたい方などを対象に「香川文化遺産保全技術者養成講座」を開催しました。
 この度、この養成講座で学んだことを実践に生かすとともに、その知識や技術をより高めていくため、養成講座受講修了者を中心に、歴史的建造物の保存と活用を推進する団体として「香川歴史的建造物保存活用会議」を設立します。
 本会は、歴史的建造物の調査や研究、保存活用に関する助言、支援、普及啓発、技術者の育成のほか、所有者や地域が抱える様々な課題への対応など、私たちの暮らしの中にある歴史的建造物の保存と活用に関わる活動を進めて参ります。
 

2 設立に至る経緯

平成27年12月 香川文化遺産保全技術者養成講座 実行委員会 設立
平成28年4月~平成29年3月 第一期 香川文化遺産保全技術者養成講座(全12回) 開催
平成29年4月~平成30年3月 第二期 香川文化遺産保全技術者養成講座(全12回) 開催
平成29年11月~平成30年6月 本会の設立準備検討会(全9回) 開催
平成30年6月28日 香川歴史的建造物保存活用会議 設立総会開催
 
平成30年6月
香川歴史的建造物保存活用会議
代表 大西泰弘
香川県丸亀市中府町四丁目2-27
電話 0877-85-5126

2016年度 第一期 養成講座プログラム

2017年度 第二期 養成講座プログラム